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【リヴァイ】いつか地平線を眺めるなら【進撃の巨人】

第61章 ◇第六十話◇星のない夜【恋の行方編】


小さな布に見えたそれは、自由の翼の紋章だった。
兵団服のジャケットから切り取ったもののようだった。
切り取られた自由の翼を、私は何度か見たことがある。
壁外任務や壁外調査で命を賭して戦った勇敢な兵士の生きた証として残している兵士がいたり、または、身体を取り返せなかった兵士のジャケットからせめてものカタチとして切り取りご家族に渡すこともある。
私も実際、この小さな生きた証をご家族に渡しに行ったことがある。
それはひどく、ひどくつらい任務だったけれど、とても大切な任務でもあると思っている。
私達仲間が、大切な仲間にしてやれる、最後の仕事だからー。

(これも誰かの生きた証なのだろうか。)

そう思って触れようとした手は、ミケ分隊長が続けた言葉で動きを止めた。

「ルル・クレーデルのものだ。」
「…!」
「さっき、彼女のご両親のところへ行って頂いてきた。
 君に持たせてやりたいと言えば、喜んで用意してくれたそうだ。」

ミケ分隊長はそう言って、皴の寄ったノートの上にルルの生きた証を置いた。
私は、恐る恐る手を伸ばす。
紋章に触れると、少しひんやりしていて、ルルじゃないーと思った。
でもー。
私が触れられるルルは、もうこれしかないー。

「君たちはふたりでひとつなのだろう?」
「…っ、はい…っ。」
「彼女はいつも君と共に戦いたいと言っていた。
 そのためだけに死ぬほどつらい訓練も耐え抜いたとても強い兵士だ。
 きっと君の助けになる。」

だから、連れて行ってやってくれー。
ミケ分隊長は、私の手のひらを広げると、その中にルルの生きた証を包ませた。
私の手の温もりが、自由の翼の紋章を少しだけ温める。

「おかえり、ルル…っ。」

私の手の中におさまってしまうくらいに小さくなってしまった大切な親友を、強く強く抱きしめた。
巨大樹の森に置き去りにしてしまったと思っていたルルが、家族の元へ帰れたことは知っていたけれど、でも、私の中のルルはいつまでも巨大樹の森で独りぼっちだった。
それが寂しくて、悲しくて、悔しくて、本当はずっと堪えられなかった。
助けに行きたいと思っても、私はもう巨大樹の森にルルはいないことを知っているからどうしようもなくてー。

(やっと…っ、会えた…っ。)

私の涙が、自由の紋章を濡らす。
いつまでも降り続く土砂降りの雨が、誰かの悲鳴みたいに窓を激しく叩いていた。
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