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【リヴァイ】いつか地平線を眺めるなら【進撃の巨人】

第55章 ◇第五十四話◇魚も溺れる夜【恋の行方編】


私の知らない男のリヴァイ兵長が目の前にいて、彼の後ろに見え隠れする女達の姿がとても怖かった。

(いやだ…っ、他の女の人にしたみたいに、私に触らないで…っ。)

私は必死にリヴァイ兵長の胸板を押す。
知りたくない。リヴァイ兵長が今までどんな風に女を抱いてきたのかなんて。過去に何人もの女を抱いてきた記憶なんて、知りたくない。
知られたくない。リヴァイ兵長の成果のひとつに数えられるだけなのなら、私の身体の弱いところも、触れてほしいところも、知られたくなんかない。
触れてほしくない。他の女の人が悦んだやり方で、他の女の人を悦ばせたやり方で、私に触れてほしくない。
そんな惨めな思い、したくないー。

「ゃ…っ!」

必死に胸板を押し続けて、ようやくリヴァイ兵長の唇が離れた。
陸で死にかけていた魚が水中に戻れたときみたいに、私は必死に酸素を身体に吸い込んだ。
そんな私を、リヴァイ兵長は何も映していないような冷たい瞳で見下ろして口を開く。

「そんなにあのクソ野郎がいいか。」

責めるような冷たい視線。
危機管理が足りないと私を叱ったリヴァイ兵長は、怖い顔をしていたけれど、怖くなんてなかった。
だって、そこには部下を想うリヴァイ兵長の心があったから。
でも、今目の前にいる男の人は、違う。知らない誰かだー。
そこに、私の知っているリヴァイ兵長の優しさは欠片もない。
どうしようもない最低な女を性欲を満たす道具か何かと思っているんじゃないだろうか。そんな気すらする。
私が、優しいリヴァイ兵長を消してしまったのだろうか。
ジャンを利用して、自分勝手に心と身体を満たそうなんてしたからー。

「あぁ…、アイツか。」

冷たい瞳の色がスッと消えた後、何かに気づいたようにリヴァイ兵長が小さく呟いた。
でも、何を言ったのかまでは聞き取れなかった。
ただ、リヴァイ兵長の瞳にはまたすぐに冷たい色が戻って、私の両手をベッドに縫い付けるように押し付けた。

「あれがお前の言ってた好みの男か。」
「…え。」
「エレンと喋ってるのを見たことがある。
 確かに、アイツは口が悪ぃ。目つきも悪ぃな。」
「あの…、何を言ってるんですか?」
「知らなかったな。アイツが、いつもお前のそばにいたのか。」

確かめるというよりも、嘲笑うようなリヴァイ兵長の言い方に戸惑った。
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