第2章 本能寺の炎
1582年 6月2日 明け方━━━
信長の宿所本能寺を包囲し、兵は四方から乱入した。
敵勢は鬨の声を上げ、御殿へ鉄砲を撃ち込んだ。
「ねえ、頼継。誰が攻めて来たと思う?」
腰まで伸びた艶やかな長い黒髪が、突如戦場と化した火薬臭い風になびいた。
黒く大きい瞳、それと対称的な白い肌、美しく桃色に帯びた唇、血と火薬の臭いが交差する中で微かに鼻を擽る甘い匂い、少し乱れ二つの膨らみが強調される寝巻き姿、炎の熱による汗で輝く胸の谷間。
そのどれもが胸を打つほどいとおしかった。
「桔梗の紋が見えた。きっと明智の軍勢でしょう」
「そう…。是非もなし」
本能寺が炎に包まれる。
一つの時代が終わる。
今まで積み上げてきたものが、走馬灯のように頭を過る。
信長は最期の時、司馬頼継の腕の中に抱かれながら静かに過去に思いを馳せていた…。