第2章 謎に包まれた歌姫
「SPがピンチの時は、十四松。お前もSPに加勢してくれ」
「あいあい!やきうだね?!」
「ああ。存分に暴れていいぞ」
「やったぁ!!」
「よし、会議はお開き!」
部屋の呼び鈴を押すと、二人のSPがドアを開け、部屋に行くおそ松たちの背後を守る。
「今日もご苦労だった。休んでくれ」
カラ松の労いの言葉に深々と頭を下げ、見回りに戻る。
街の喧騒や営業時のカジノとは裏腹に、閉店後のカジノはとても静かだ。
例えて言うなら、「兵どもが夢のあと」といったところか。カジノが夢を見るだけの場所だということを、嫌でも実感させられる。
だが客がこれを見ることはない。あくまでも夢を見させるのがカジノの役割だ。ギャンブルやバーで支払う金額は夢の対価で、一攫千金の夢を実現出来るかどうかは、本人の運次第だ。
おそ松たちディーラーはイカサマなどしないし、させない。だからこそ客が集まる。
カラ松は部屋のソファーに身を沈めていた。
「今日は歌姫たちは、現れなかったか」
深くため息をつく。
このカジノには歌姫がたちがたまに来る。特に雇ってもいないが、勝手にステージで歌っている。いつしかカラ松は、その歌姫たち一人に心を奪われていた。だが彼女たちは歌い終わると姿を消してしまう。場所の借り賃だけ払ってはいるがアポなしで来るため、いつ来るのかすら分からない。
「どこの誰なんだ、愛しいマイリルレディー」
SPたちにも気をつけるように言ってはあるが、見つからない。人混みに紛れて分からなくなるのだ。しかも名前も聞いていない。聞こうとしても、はぐらかされるという。
「はぁ…。八方塞がり、エイトシャットアウッ!…いや、いつか必ずこの腕の中に入れてみせるさ!待ってろ、マイハニー!アイラビュー、アイニーデュー!」
「お前さあ、キモいよ?何自分を抱きしめてんの?」
「おうふ?!」
「キモいのは、いつものことだけどね」
「いや、歌姫たちのことを考えていたのさ」
「ああ、綺麗な歌声の子たちだよね」
「センターの娘が好きなんだ」
「へえ。カラ松兄さん、あの人が好きなの?」
「釣り合わない…」
「俺は別の子が好きだよ」
歌姫たちは6人グループで、全員かわいい。
「え?!おそ松兄さん、右から何番目?!」
「右?違う、違う。一番左の子」
「よかった」