第1章 来訪者
「見ろ、最近出来たカジノの連中だぞ」
「何でもまだ20代らしいじゃないか」
「あのマフラーが、オーナーらしいぞ」
「ああ、そうだろうな。いかにもって感じだ」
赤塚地区の一等地に、大きなカジノ施設が出来た。その名は『MATUNO』。経営するには六つ子の兄弟で、オーナーはグレーのコートに白いマフラー、サングラスをした、いかにもな風貌のカラ松。と思いきや、ディーラーを勤めるおそ松だ。だがあくまでディーラーとして存在しているため、ほとんどの人がカラ松がオーナーだと認識している。警護のために雇われているSPたちですら、そう思っている。
おそ松たちもそれは予想の範囲内だし、むしろその方がおそ松が動きやすいので、都合がよかった。従って他の兄弟たちも、それに関しては何も言わない。長男がいいならそれでいい、それが彼らの考え方だ。
今日もカジノには、沢山の遊戯者が訪れている。ジャックポットにはしゃぐ者、逆に少しも当たらず落胆する者。様々な人間模様がそこにはある。中にはイカサマだと騒ぐ者さえいる。
「何だ、このカジノは?!一度も当たらねぇぞ!」
騒ぐ客にSPが動く。
「お客様。他のお客様のご迷惑となりますので、お静かにお願いいたします」
「あ?!イカサマやってるのを隠すつもりか?!」
「イカサマなどしておりません。お客様の運が悪かっただけでございます」
「ふざけんな!!俺の運が悪いだと?!おい、お前!この台でやってみろ!当たったら認めてやる。ただし、当たらなかったら、警察に言うからな!」
「ええ、どうぞ。ですが私がやったのでは、私だから当たったという疑惑もありましょう。お客様のお連れ様は、いらっしゃいますか?」
「ああ、今そこのルーレットにいる」
「では、その方にお願いいたしましょう」
SPは男の連れをスロット台に案内した。
「申し訳ございませんが、一度回していただけますか?」
「ちっ、せっかく運がついてたのによ。てかお前、また騒ぎを起こしてるのか?いい加減やめとけよ?」
その男がスロットを回すと、ジャックポットになった。
「え?!」
「おおっ!!今日の俺は、絶好調だな!!」
「ありがとうございます。これでイカサマでないことが、証明されました」
「あー、またか。こいつ運がないくせにカジノに来ては、やれイカサマだの騒ぐんだ」