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【文スト】Vanilla Fiction【江戸川乱歩】

第2章 冬






「……私の異能に、名前はありません。ただ、〝嘘がつけない〟というだけで、ほかは何も。嘘がつけないから、何もないのだと思います。人は、嘘で自分を着飾り、複雑に生きていくものですから」



成美は目を伏せ、唇を歪めた。
思い出すのも嫌な出来事。この異能のせいで、成美は両親に閉じ込められた。外は危険だと、体のいい言い訳が出来てしまって。



──福沢さん。



あの銀髪を、笑皺を、射抜くような視線を思い出す。こうして嫌な記憶をすべて書き換えられたから、成美は今も生きていられる。それはすべて福沢諭吉のおかげだった。



「……うん、だいたいわかった」
「え……?」

──そんなはずはない。だって、私の異能は。

「〝君の話が本物だ〟という大前提のもとに僕は推理している。異能力はそこに割って入った好都合の材料にすぎないよ」
「……そう、ですか」



救われた気がした。

ずっと、〝嘘がつけない〟ことは人間として生きる上で致命的な障害物だと思っていた。それを簡単に凌駕し、踏破し、破壊した、この江戸川乱歩という男は何者だ。

──至上の名探偵だ。



「ありがとう、ございます」
「僕にわからないことはない! なぜなら僕が名探偵だから!」




いつか、福沢が言っていた。

『成美も、いつかは自分を受け入れられるときが来る。そして、自分を受け入れ包む者も現れる。そのときを待て。成美、おまえは、幸せにならねばならない』

そのときは、どうしてそれが福沢でないのかを問えなかった。有無を言わさぬ眼だったから。福沢であったならと願いもした。けれど、今の成美ならわかる。



──福沢さん、やっと、来たよ。



五年前の犯人が捕まるまで、そう時間はかからなかった。




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