第27章 あなたからのお誘い
付き合いはじめて約1ヶ月。
私と巻島さんは以前と特に変わらない毎日を過ごしていた。
周りに別に隠しているわけでもないのだが、以前と何も変わらないからか付き合っている事自体、自転車競技部の人達しか知らない。
金城さん、田所さんには巻島さんが報告したらしい。
最初のうちは田所さんがなんだかすごくニヤニヤしながら見てきたが1ヶ月も経てばそれも落ち着いて来たようだ。
「茉璃、峰ヶ山行くけど…一緒に行くか?」
『はい!』
一緒に過ごす時間といったらこの練習中に峰ヶ山に行く時間と登下校の時間だけだ。
それでも私は十分だった。
でも、まぁ欲を言うのならもう少しだけ恋人らしいこともしてみたいな、なんて思う事もあるけど。
今日も峰ヶ山の頂上で巻島さんの綺麗な横顔を見つめながらそんな事を思う。
「どうした?そんなに見つめられると流石に照れるショ」
少し微笑みながら巻島さんはこちらを見る。
『巻島さん、髪だいぶ伸びましたね』
「あぁ。そろそろ切るか迷ってるショ」
『え!切っちゃうんですか?勿体無い…』
そういうと巻島さんは自分の髪を手にとり眺めながらなんだか考えこんでいる。
「切るの、やめるショ」
巻島さんは少し顔を赤くしながら恥ずかしげに髪をずっと触っている。
そんな姿を可愛いと思うのは失礼だろうか。
でも何だかとても愛おしく思えた。
『巻島さん、デート…しませんか?』
私は勇気を振り絞り提案をする。
すると、巻島さんはなんだか気恥ずかしそうに後ろポケットから2枚の紙をとりだした。
「…これ、今日渡そうと思ってたショ」
そう言いながら巻島さんが私に差し出したのは、2枚の水族館のチケットだった。
「なんだかんだで遅くなっちなったが、その…デート…しねぇか?」
私は思わず巻島さんの腕に抱きついた。
『行く!行きます!もう今から楽しみです!』
そんな私を見て巻島さんは少し照れくさそうに、でも嬉しそうに微笑んでいた。