第16章 長瀞山ヒルクライムレース
山頂に着いたバスを降り、少し伸びて深呼吸をする。
まもなく高校生の部が開始する頃だろう。
自分が出場するわけでもないのになんだか心臓がバクバクと煩い。
私は緊張を胸にゴールライン付近に陣取り2人のゴールを待つ。
観戦に来ると毎回思うが、車で並走しているわけでも、給水所でスタンバイしているわけでもなく、こうしてゴールでただ待っていることしかできないのはなんだか少しムズムズする。
暫くすると社会人の部の出場者たちが続々とゴールラインを通り過ぎていく。
(いよいよ、始まるんだ。)
ーーー続きまして、
高校生の部、スタートです。
会場のアナウンスの声と共に周りの話題は一気に巻島さんと尽八のことに変わった。
私と逆サイドには尽八のうちわや名前のプラカードを持った女の子たちがキャッキャ言っている。
どうやら私の応援している2人は相当な有名人だったようだ。
とにかく、ゴール付近ではレースの展開を直接見ることはできないため、アナウンスの声に集中する。
ーーー現在トップは秩父緑高校の武蔵川選手!その後ろに箱根学園の東堂選手と総北高校の巻島選手が続きます!
(あの2人なら絶対に大丈夫…どちらかが頂上を獲るはず…!)
心の中で精一杯の応援を送りゴール手前のカーブを見つめる。
誰があそこにいち早く現れるのだろう。
そんな事を考えているとまたしてもアナウンスが入る。
ーーーさぁ、ゴールまであと約2km。ここで東堂選手と巻島選手が仕掛けます。一位の選手を追い抜き凄い勢いで他の選手を引き離していく!!
そしていよいよカーブに私の待ち望んだ2人の姿が現れる。
どちらも譲らず身体をぶつけ合いながらゴールを目指していた。
『巻島さーーーーん!!!尽八ぃーーー!!!』
私は思わず2人に向かって叫ぶ。
2人は少し微笑み更に加速した。
そして2人はほぼ同じタイミングでゴールラインを超えたのだった。