第15章 出走直前の男の話(巻島目線)
エントリーの受付が無事終了し、スタート地点に向かい、前から三列目の真ん中あたりに東堂と隣り合わせに陣取る。
すると、東堂が前を見据えたまま真剣な顔つきで俺に問いかける。
「なぁ、巻ちゃん。巻ちゃんは茉璃の事をどう思っている?」
「クハッ。出走直前に急になんショ。」
思いもよらない質問に少し動揺しつつもはぐらかそうとすると、東堂はそれが気に入らなかったようだ。
少し声を荒げはぐらかそうとした事に対し文句を言うと、また真剣な表情でこちらの目を見て話し始める。
「巻ちゃん、俺は実家が近い事もあり幼少の頃より茉璃とはずっと一緒にいた。俺が高校に入り、そして茉璃のお父上の転勤を機に会うことはほとんどなくなってしまったが俺はずっと茉璃を見てきた。俺はな巻ちゃん。茉璃のことが昔から好きだった。それは今も変わらない。巻ちゃん。巻ちゃんはどうなんだ?正直に答えてくれ。」
東堂の真剣な目を見る限りきっと嘘ではないのだろう。
ここまで言われてはぐらかしてしまうほど俺も野暮ではない。
「あぁ。俺も富永、いや茉璃のことが好きショ。ついこの間まではどうなりたいとか思って無かったが、今では誰にも渡したくないと思ってる。」
この言葉に東堂は満足げに口角を上げる。
「やはりそうだったか。俺は明日と明後日、茉璃とデートをする事になっている。」
「は!?デート!?」
「そしてこの勝負に勝ったら俺は茉璃に告白をしようと思う。いいな?巻ちゃん。」
良い訳があるか。
そんなこと絶対阻止しなくてはならない。
「クハッ。そんな事言われたら尚更この勝負、負けるわけにはいかねぇッショ!」
「絶対に負けないぞ!巻ちゃん!!!」
「そりゃこっちのセリフだ!尽八ぃ!」
俺らは笑顔で手を打ち合わせるとスタートの合図と共に通算10戦目となる絶対に負けられない戦いを開始した。