• テキストサイズ

蝶と蜘蛛

第14章 大会当日。(巻島目線)


大会当日。
俺はある一軒家の前にいる。
その家の住人に電話をかけると、中からバタバタと聞こえて玄関からその住人が顔を出す。

「はよっす」
『おはようございます。巻島さん』

そう笑顔で応える富永は笑顔で俺の横を歩き始める。

今日は一ヶ月前に約束をしたヒルクライムレースの日。
聞いたところお互いの家はさほど遠くないということで一緒に会場まで行こうと迎えにきたのだ。

先日自分の気持ちをしっかり自覚したので多少の緊張はあったが、なんだかそれが今は心地がいい。

そんなことを考えていたらあっという間に会場に到着した。

会場に着き、受付へと向かうと人の波に飲まれて富永がはぐれそうになっていた。
俺は自分の服の裾を差し出し捕まるように促す。
すると、彼女は照れた表情を見せ顔を赤くしながらちょこんと差し出された裾を掴んだ。

(ックハ…これは可愛いすぎショ!にやけちまいそうだ)

必死にニヤけ顔を隠そうと遠くを見据えていると、何人かの女の子の群れの中から俺の名前を呼ぶ男の声が聞こえた。

その男は俺に手を振りながら母親のような事を言いながらこちらに駆け寄ってくる。
流石に俺はもう慣れたが、この光景に驚いたかのように富永は俺の裾から手を離し固まってしまっている。

すぐさまお互いを紹介してやろうと話を始めると、東堂の口から思いがけない名前が口にされる。

「茉璃…?」
『尽八…?』

俺の思考は完全にショート寸前だ。
きっと東堂も富永も同じなのだろう。
3人で目を見合わせながら暫くの間黙り込んでしまう。
その沈黙に耐えかねたのか、最初に言葉を発したのは富永だった。

『えっと…お2人のご関係は…?』
「腐れ縁ショ」
「酷いぞ巻ちゃん!!俺らは親友と書いてライバルだ!」
「で、お前らの関係はなんなんショ?」
「『幼馴染みだ(です)』」
「そして、巻ちゃんと茉璃の関係は?」
『…部活の先輩と』
「…後輩ショ」

なんという偶然なのだろう。
だが、先日の峰ヶ山での富永の走りが東堂の走りそのものだったことや俺の走りについてこれていた事にも頷ける。

そんな事を考えているとゴール地点付近行きのバスがいつの間にか出発間近になっていたようだ。

俺は東堂と共に富永を送り出し、受付に向かうのだった。
/ 151ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp