第72章 親友の元へ
昨日の余韻を抱えながらも今日からは再び日常が戻る。
部活の日、私はいつも通りマネージャーとして動き回る。
ドリンクや補給食を用意し、練習の記録をとり、部員たちの体調を気にかける。
胸の奥には昨日抱きしめてもらった温もりがまだ残っている。
部活が終わると、みんなが帰る足音を見送る。
それでも私の心はいくらか軽くなった。
あの日、あの瞬間、裕介さんが”必ず迎えに来る”と言ってくれたことを思い出すたびなんだか救われた気持ちになるのだ。
そして、待ちに待ったオフ日。
その日は自然と足が学校の図書館へと向かっていた。
裕介さんには聞かなければならないことがある。
図書館の扉を押し開けると静けさが迎えてくれる。
ページをめくる音だけが響く空間に心がホッと落ち着く。
そして私は裕介さんの目の前の席につきながら小さく呟いた。
『裕介さん、尽八には伝えないの?』
静かな図書館の空気を破った自分の声が思ったよりも大きく響いた。
机の上に広げられたノートの上で裕介さんの手がピタリと止まる。
しばらく沈黙が落ちて、彼は俯いたままかすかに息を吐いた。
「…やっぱ言わなきゃだよな。あいつにも…」
その横顔はどこか寂しげで、それでも覚悟を決めたような色をしていた。
『きっと尽八のことだから、裕介さんと同じ大学に行くんだって躍起になってると思う。私にも志望校、聞いてきたし」
言いながら胸の奥が少し傷んだ。
彼らの絆を知っているからこそ、別れが近いことを思い知らされる。
「クハッ…あいつらしいショ」
そういって裕介さんはわずかに笑った。
その笑みはどこか切なくて、強がりのようでもあった。
やがて裕介さんは携帯を握りしめ立ち上がる。
静まり返った図書館に椅子の軋む音だけが響いた。
「ちょっと行ってくるショ」
短くそう言い残し、彼は扉をあけて外へでた。
夕方の光が差し込み、彼の背中を淡く照らしていた。