第1章 物語にさえなれないモノたち
点滅を繰り返す街灯。肌を撫でる風がささくれだった心を宥めるように冷たい。
夜、この場に立つのは久し振りだななどと考えていれば突如としてかかる声。
「キミ、ずっと此処に居るよね?」
目を向ければ何処にでも居るリーマン風の草臥れた男がいけ好かない唇許の歪みを隠しもせず近付いていた。好みじゃないが、話が早い奴は嫌いじゃない。
「20K、ホ別。基盤は基本S着、割り切り」
「じゃあ、それで」
毎度あり。
客の男と連れ立ってソレ用の場所へと向かおうとした足は意思に反して進まなかった。
掴まれた腕が痛い。馴れた熱は此処には無かった筈のもの。
「ごめんね〜。こいつ、俺のなんだわ」
「他探して」、と後ろで声を荒げるリーマンを余所にそいつは腕を掴んだまま歩き始めた。
「痛い」
掴まれた腕の痛みを訴えば「黙って」とキレられた。何故お前がキレるんだ。キレたいのはこっちの方だ。折角の客を−−邪魔しやがって。言ってやりたいことはたくさんある。
あの場に立ったのも、心がささくれだったのも、好きでもない奴の熱に縋りたくなったのも全部お前の所為だというのに。
「全部僕が悪いのかよ」
「……」
連れられて入った馴染みの部屋で、みっともなく泣き出しそうな心だけが素直に『寂しい』と叫んでいた。