第8章 激動のパンフェスティバル
ローとお付き合いを始めてから、早くも一週間。
季節は冬の始まり、11月の下旬に差し掛かる頃。
ムギとローは変わらずギリギリのところで清く正しいお付き合いを維持し、ムギはこれまた変わらずバイト三昧な日々を送っていた。
「ねえ、ムギちゃん。来週の土曜日なんだけど、フルタイムで出られたりしないかしら?」
「え、いいですよ。」
間もなく朝の勤務を終える時間にレイジュから声を掛けられ、ムギは即答で頷いた。
勤務時間を見直しているムギのシフトは、土曜日ならば朝から昼までか、昼から夕方まで、もしくは夕方から閉店までのいずれか。
フルタイムというからには朝から晩まで働くハードワークだが、仕事が大好きなムギは苦にならない。
「ごめんね。その代わり、どこかでお休み取っていいから。」
「いえ、いいんです。でも、なにかあったんですか?」
近頃のバラティエはギンの加入によって人手不足が解消されつつあり、経営陣がムギを頼るのも減ってきたのに。
「うん。それがね、来週の土曜日に軽井沢でパンフェスが開催されるのよ。今回、うちも参戦してみようと思ってて。」
「パ、パンフェス……!?」
正式名称、パンフェスティバル。
日本語訳して、パン祭り。
それが某パンメーカーの“ポイント集めてお皿と交換キャンペーン”じゃないことくらい、馬鹿なムギにだってわかる。
パンフェスとは、ひとつの会場に全国から集まったパン屋が出店し、その場にいるだけでありとあらゆるパンを購入できる夢のような祭。
「うえぇぇ~~! 行きたい! 羨ましい!!」
人気のネズミキャラが君臨する舞浜の王国より、ハロウィンで大賑わいする大阪の遊園地より、どこよりも憧れる夢の地だ。