第7章 トラ男とパン女の攻防戦
駅まで向かう道すがら、ムギは採点されたテストを鼻高々に見せびらかした。
「どうです? ほら、すごいでしょう。」
「……まあ、前のテストと比べりゃ雲泥の差だな。」
進学校主席のローからしたら、並べられた問題はどれも子供レベルのものだっただろう。
正解した問題よりも間違えてしまった問題が気になり、なぜそんな答えが出たのか、どこでミスをしてしまったのか、原因を探って視線が動く。
しかし、その子供レベルのテストで大喜びをするムギの前でミスを指摘するのは無粋というもの。
間違えた点は次のテスト勉強に活かすとして、とりあえず今は素直に頑張りを褒めた。
「よくやったじゃねェか。昨日までの努力も無駄じゃなかったな。」
「えへへ~!」
得意げになって胸を張るムギは可愛い。
こんなに喜ぶムギを見られるのなら、テスト前には毎回つきっきりで勉強を見てやろうと思えてくる。
余計な遠慮も、ローへの気遣いも、別にいらない。
ただ、自分がそうしたいだけなのだから。
しかし贅沢を言うのなら、見返りは欲しい。
物でも金でも、ましてや感謝の言葉でもなくて。
「なあ。」
「はい? なんですか?」
「俺もそれなりに頑張ったんだ。ゴホウビ、くれるだろ?」
言った途端に財布を取り出そうとしたムギの動きをすぐさま遮り、腰を抱いた。
こいつの頭には、報酬候補が金しかないのか。
怪訝そうにこちらを見上げるムギの腰を寄せて怪しげになぞると、白い頬がたちまち林檎色に染まる。
いくら鈍感な彼女でも、ローの意図を察したらしい。
「なあ、今夜…――」
「わかりました! 今日はバイトなんで、ローが好きになれそうなパンを買ってきます。今日、バイトなんで!!」
まったく求めていないモノを、報酬として押しつけられた。
しかも、バイトと二回言うあたり、明確な拒絶を感じる。
つまりは、オアズケという意味で。
「……ハァ。」
重いため息と共に、腕を離して警戒中のレッサーパンダを解放する。
どうやら今回に限っては、ローの負けらしい。
結局、先に惚れた方が不利なのだ。
とはいえ、負けっぱなしではいられないけれど。
ローとムギの攻防戦は、まだまだ続く。