第1章 とにかくパンが好き
パンの匂いって、最高だと思う。
いや、匂いだけではなく、味も食感もすべてにおいて最高だ。
決してお米を馬鹿にするわけじゃないけれど、炊き立てのご飯の匂いより、オーブンから漂うパンの香りの方が食欲をそそるとは思わないか?
食パンにフランスパン、クロワッサンにベーグルやデニッシュ。
一括りにパンと言っても種類は豊富で、それぞれの良さを挙げていたらキリがない。
とにかくムギは、パンが大好きだ。
もし無人島にひとつだけアイテムを持って行けるなら、迷わずパンをひとつ選ぶくらい。
パン好きのきっかけは、きっと両親がパン派だったからだろう。
朝食は絶対にパン。
お昼は給食だからお米の割合が多かったけれど、なんなら夕食もパンだった。
ムギのパン好きは両親の影響なのか、はたまた遺伝なのか、今となってはわからない。
なぜなら、ムギの両親は揃って事故で帰らぬ人となってしまったから。
悲しみに暮れた時、両親が恋しくなった時、ムギはいつでもパンを囓る。
あの日からムギにとってパンは、両親の味に変わったのだ。
香ばしくふっくら甘い、両親の味。
とにかくムギは、パンが好き。