第2章 とにかくパンが嫌い
物心ついた頃から、とにかくパンが嫌いだった。
医者である両親は食事こそが健康の基本だと考えて、忙しい合間に美味しく栄養がある料理を作ってくれた。
栄養面において、和食ほど適した食事はないと思う。
低カロリー、低脂肪で、素材の良さを活かした塩分控えめの味つけ。
主食、主菜、副菜が揃いバランスが良い。
ゆえに、ローの家では昔から和食しか出されなかった。
ローが小学生高学年に上がる頃、両親が仕事の都合で海外に行くことになり、日本に残る選択をしたローは親戚のコラソンの家に預けられたが、コラソンもまた、パンが嫌いな男だった。
ドジっ子なコラソンに代わって食事はローが作る羽目になり、パンが嫌いな男二人の家では当然パンが食されるわけもなく、そのまま現在に至っている。
パンが悪だとは思わない。
だけど、米に比べてカロリーも高く、油っぽかったり甘すぎたりするそれを、好んで食べようとも思えなかった。
時折パン屋の前を通ると香る匂いは、確かに良い香りだとは思うけれど、実際に口にしてみるとモソモソ唾液を吸収して膨れる感触が堪らなく気色悪い。
まるでスポンジを噛んでいるかのようで、金を払って買う価値はきっとない。
ローにとって、パンとはそういう食べ物だった。