第1章 【長編】雷霆のジェード①(SPN/R18G)
がふと自分の身体を見下ろすと、タンクトップにボクサーパンツ一枚というなんともラフな格好をしていた。これは彼の寝巻きだ。暑苦しい欧米の熱帯夜に在っては大概がこの格好である。
それが本当に熱帯夜を思わせる夏場であれば話は完結するのだが、今は実感している限り冬だった。それも水分を多分に含んだ雪の降り頻る寒い冬の夜だった。決してこんな寒々しい格好で寝るわけにはいかないし、耐えられない。
そして何より不可解なのは今現在、寝巻きに身を包んでいながら地下鉄駅のホームに佇んでいる事だった。人が多い駅ではないが、電車を待つ人々の列に並ぶにしては常軌を逸した格好だろうと思う。公然猥褻罪などで逮捕されてもおかしくない。
列の後方には聡明そうな女性が居る。彼女の羞恥に耐えられない悲鳴を聞き付けた警備員や駅員がやって来たら真っ先に逃げる算段を立てなければならないだろう。それでもが冷静に現状を受け止めているのは、此れが紛れもなく自身の夢であると確信しているからだった。
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夢を見ている人間がその世界を現実ではないと認識出来ている夢を明晰夢という。は少なからずその概念を知っている。『自分は夢を見ているのだ』と頭で理解していた。面白い話で、夢であると割り切っている為か、あまり罪悪感や羞恥を感じない。精々思うことは『自分は露出願望でもあったのだろうか』と己を疑う事だけ。
そうこうしているうちにホームには七両編成の電車が滑り込んできた。音もなく風もなく目の前を進んでいく様は非現実的で思わず苦笑したが、やはり夢だからとそれらを流した。電車を待つ列が蠢き、自分より前に並んでいた男二人はそれぞれ最後尾と六両目に乗り込む。
次を待つは僅かな違和感を抱えながらも彼らに倣い後ろから三両目に乗り込む。その後も人の波は従順に電車へ流れ込み、例外なく黙して席に着いた。椅子の座り心地は分からない。ただ赤く淀んだシートは決してを良い気分にはさせなかった。
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