第1章 序章
それは攘夷戦争が終幕を迎えようとしていたころ
眼下に広がる焼け焦げた地面
漂う血の匂い
頭上にはこぼれ落ちそうな星空
今にも壊れそうな家屋の瓦屋根で、夜空を見上げる二つの影
「宇宙(あそこ)に行くつもりなのか?」
「…うん」
「そうか…」
「…うん。…すごい医者になってくるよ」
「……」
どちらともなく、言葉が詰まり黙ってしまう
行くな
--必ず戻るから
そばにいろ
--待っていて
夜空を見上げる視線が自然と絡まる
どの言葉も飲み込む二人
言葉じゃ伝えきれない事を知っている
言葉はもう必要ない事を分かっている
二人を照らす月明かりは、一つになる影を色濃く照らした
今この時だけはと、互いの温もりを確かめ合うように…
夜風は銀色の髪を優しくなびかせた
序章 -Fin.-