第3章 思惑
「やったぜ!萌!」
廊下で会うなり突然抱きついてくる恋次。
「わっ、いきなりどうしたの?」
「悪ィ、いやさ…今度の人事でさ、隊長が俺の昇格を提案してくれるって言うんだぜ!」
恋次はかなり興奮した様子で説明し始めた。どうやら更木隊長が恋次を推薦してくれるらしい。ただ、十一番隊で昇格は考えにくい。
「もしかして、異動ってこと?」
「おう!」
「でも恋次、十一番隊居心地いいって言ってたじゃない」
「そりゃそうなんだけどよ、昇格出来るなら話は別だぜ」
恋次とは流魂街にいた頃からの長い付き合いで、ルキアと共によく遊んだ。護廷十三隊に勤める今でも良い友人だ。嬉しそうな恋次を見て、萌も自分の事のように嬉しくなった。
昇格か……あたしは浮竹隊長の元に居られれば官位なんて…
四番隊に浮竹の薬を取りに行った帰り道、ひとりぼうっと思案する萌。他の隊に興味がない訳ではないが、ずっと十三番隊にいただけに異動には抵抗がある。
そこで、にわかに生まれた考えにふと足を止めた。
……今、何考えた?九番隊に、なんて…あたしどうかしてる。
恥ずかしくなり俯いて再び歩き出す。瞬間、廊下の角から現れた人影と思い切りぶつかってしまった。
「きゃ…!」
「…大丈夫か」
俯いたため前を見ていなかった。バランスを崩し後ろに倒れかかったが、すぐに腕が伸びてきて萌を抱き留める。相手は萌が視界に入っていたようだ。
「あ…」
必要以上に抱きすくめられている気がして、困惑しつつ顔を上げる。
「朽木隊長…?す、すみません!」
見上げたすぐ先に端正な白哉の顔があった。照れと恐怖で声がうわずる。
「…怪我はないか」
「は、はい…大丈夫です」
白哉が、回した腕を緩めはしたが、まだ離してくれないことに萌は動揺した。怒らせてしまったんだろうか…?
腕の中にいるのが恐縮で少しもがくと、ようやく白哉は手を解いた。
「本当に…申し訳ありませんでした、失礼します」
「待て」
去ろうとすると今度は強い口調で呼び止められる。びくっとして振り返ると白哉が静かに口を開いた。