第9章 恋煩い
「オラ次!さっさとかかって来い!」
十一番隊道場、その中を覗くと血気盛んな怒声が聞こえてくる。
「ひいいっ!」
「だらしねーなぁ…十一番隊隊士ともあろうモンがよ」
一角が次々と隊士達をなぎ払っている稽古場へ萌は足を踏み入れた。
「相手をしてもらえますか?斑目三席」
「夢野…!最近力入れてるみてえだな、調子はどうだ?」
「はい、お陰様で悪くないと思います」
「お前が相手か……いい度胸だ、久しぶりに一丁もんでやるよ」
皆が見守る中稽古が始まった。木刀が激しく交わる音が辺りに響く。
正攻法じゃ力負けしてしまう…
一角の太刀を受け止めきれず後方に飛び退く萌。
「流石に早いな…身軽なのはいいが、いつまでもつかなアァ!?」
鋭さを増した太刀筋を分析、予測し素早くかわす。
「ほう…冷静だな」
「やああぁっ!」
一瞬の隙を突き先手を取った萌が踏み込むが、読まれていたようだ。
「…っ」
一角の木刀の先が萌の喉元で止まった。
「なかなかいい動きだ。楽しめたぜ」
萌は立ち上がって一礼した。
「ありがとうございました」
「憂さ晴らしになったか?」
予期せぬ問い掛けに驚いて顔を上げる。
「なんで…」
「違うのか?そんな感じがしたぜ?まァ、あんま考え込むなよ」
一角の鋭い指摘を受け、帰り道にぼんやりとここ数日を振り返る。
親睦会の夜、あれから一週間程経っていた。修兵と顔を合わせる機会は何度かあった。だが挨拶をする程度で、見る限り彼は普段と全く変わらない。
あの口づけは何だったんだろう。酔っていただけだったんだろうか。少し不安で、頭から取り払おうと剣の稽古に明け暮れていた。
そうして渡り廊下を歩いていると、ふと前方で修兵と乱菊が二人揃って立ち話をしている姿が視界を掠めた。瞬間萌はくるりと踵を返して元来た道を戻り始める。
な…何やってるんだろう、あたしは…
足が勝手に、思わぬ方へ向かってしまう。気にし過ぎなのは分かっているが、体が言うことをきかなかった。
「おや~?萌ちゃんじゃないの~、久しぶり。元気?」
すると廊下を進んだ先で京楽と遭遇した。お辞儀をして向き直る。