第1章 日常
尸魂界、その中央に位置する瀞霊廷内で死神達は日夜業務に励んでいる。
十三番隊の上位席官である萌は、隊士達をまとめる役目の他に隊長の付き人のような補佐役もこなしていた。
ある日白哉が十三番隊隊首室を訪れた。お茶を出した後一旦別室へと下がるが、しばらくして浮竹の咳が聞こえてきたため萌はタオルと水を持って再び室内へ赴く。
「ああ…すまない、萌」
「いえ」
浮竹の世話をしていると、気を遣ったのか白哉が静かに立ち上がる。
「兄の具合もすぐれぬ様だ、今日はそろそろ失礼しよう」
「悪いな、白哉」
すかさず見送りのため白哉を追って廊下へ出た。
「お気遣いありがとうございます。またいらして下さい」
背中に向かって頭を下げると、白哉は振り向き短いひと言を残し去って行く。
「…お前の出した茶、旨かった」
いつもこちらには無言でいることが多いのに、白哉に反応を返されたことが意外で少し戸惑ってしまった。気を取り直し隊首室へ引き返して浮竹の世話を続けた。
「お床の用意しますね。少しお休みになって下さい」
布団を敷き着替えを手伝っていると、浮竹が申し訳なさそうに口を開く。
「本当に…すまないな、お前に何もかもさせてしまって」
「何でも言って下さい、遠慮したら承知しませんよ」
いつも優しく部下達を気遣う、そんな隊長を出来る限り傍で支える。それが自分の役割であり願いでもあった。
「俺は萌に甘えてしまっているな」
ふう、と息をつく浮竹。そして不意に真剣な面持ちになる。
「だがそれでも、お前を傍に置いておきたいと願うのは…俺の我が儘か?」
「…いいえ」
体が弱く伏せりがちなのに部下の心配ばかり。そんな浮竹に向き直ると萌は笑顔で答えた。
「どうぞお傍に置いてください。あたしはこれからも隊長の為に尽くします」
すると、急に腕を回され抱き寄せられる。突然のことに崩れるようにすっぽりと浮竹の胸に収まってしまう萌の頭上から、気持ちの込められた言葉が優しく響いた。
「…ありがとう」
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