第4章 教え
晴れた空の下、ベンチに座る1人の女性がいた。彼女は真面目な様子で何か文字を教科書に書き留めている。
「……天月さん」
突然の声に顔を上げると、自分の横に立つ少年を見る。その幼さの残る顔立ちから15、16ほどに見えるが、ここは魔界なので自分の予想など当てにもなりそうもないだろう。
「アキアさん、こんにちは」
「こんにちは……何をしてるんですか?」
「昨日の国語の復習かな」
「へえ、天月さんって真面目なんですね」
「そうでしょうか」
「はい、横いいですか?」
「うん」
アキアも何か読むようで本を開く音が聞こえる。そして、少しすると間近に視線を感じ右横を見た。
「これ、どこの国の字ですか?僕見たことないです」
不思議そうに覗き込むアキアに答える。
「私の村で使ってる文字なんだ。小さい村だから大都会の人たちは多分知らないんだよ」
「僕はまだまだ知らないことばかりですね」
「…………」
知らなくても当然だ。ここは魔界で、人間世界の文字を知っていたら驚きである。
「あ、天月さん、この文字はなんて読むんですか?」
指し示した文字は漢字だった。
「それは夢だよ」
「じゃあ、これは?」
「希望」
アキアはキラキラした瞳で聞いてくる。
「僕も天月さんと同じ字が書きたいです」
「えっ、こんなの覚えても役に立たないよ」
「それでも覚えたいんです。僕に教えてください」
真剣に言われ悩む。
「うーんでもなあ……… っはあわかった教えるよ。その代わりと言ってはなんだけど、英語教えてよ」
「はい。もちろんです」
朝6時から7時まで1時間アキアに英語を教えてもらい。朝8時から9時は天月が日本文字を教えることに決まった。
「天月さん、ちなみに英語はどのぐらいできますか?」
「文字なら書けます。大文字も小文字も。読みと文章は……」
アキアは察したのか唸るように考え始めている。
「そうですか。まあ今自分で読むには英語ではなくてもいいとして、問題は先生がプリントを渡した時とテストですね。英文が読めなければ勉強のしようがありませんから。じゃあ今日は簡単な英単語からやりましょう。次からはプリント持ってきてくださいね」
「はい」
英語が終わりぐったりする天月
「天月さん」
「死ぬ」