第11章 烏野のエース
翌日、授業後の部活の時間に武田先生は宣言通り本当に監督を連れてきてくれた。
鵜飼さんと紹介されたその人は、どこかで見たことがあるなと思ったら坂ノ下商店のお兄さんだった。
どうやら彼は、烏野バレー部のOBだったらしく、音駒高校と練習試合をするなら、みっともない後輩の姿を見せられないと期間限定で監督を引き受けてくれたらしい。
武田先生が昨日、相手が音駒となれば···と言っていたのはこのことだったようだ。
鵜飼さんの計らいで、今の烏野メンバーの実力を見るために烏野町内会のバレーチームと試合をすることになった。
町内会の人達が来て試合が始まるのは18時30分。
備えあれば憂いなし、ということで、体育館でのことは潔子先輩に任せて、時間に間に合うようにと追加のドリンクとタオルを準備しに行く。
体育館の外に出てみると、すっかり空は茜色に染まっていた。
ようやく春らしい陽気になってきたこの頃だったけれど、やはり日の落ちる時間はまだまだ早い。
部室に置いてある筈のドリンクホルダーの予備を取りに歩きだす。
ふと、空を見上げると、薄くかかった雲が虹色に色付いて見える。
本で読んだことがある。これは確か彩雲という珍しい現象だ。
良い事のある前触れだと本には書いてあったけれど、本当だろうか。光の加減などで見られている現象だと思うからすぐ消えてしまうだろうけれど、それでも嬉しくて、何となく頬が緩むのを感じながら、そのまま部室までの道を歩く。
雲に気を取られてしまい、上を向きながら歩いていたから私は前から人が歩いて来ているのに気づかなかった。
『·····っぁ。』
「···っ。」
ボスっという音を立てて、目の前を歩いてきた人にぶつかってしまった。
後ろによろけたところを、ぶつかった人が腕をもって支えてくれた。
『すみませんっ。余所見をしていて。』
「こちらこそごめんっ、下を向いてて····。」
足元を見ていた視線を上に上げ、ぶつかった人を見て驚いた。
この人、烏野バレー部のジャージを着ている。
顎に髭を生やした、少し大人っぽい男の人。もしかしなくても、この人が噂のアサヒさんだろうか。
じっと見つめていると、どんどんアサヒ先輩の眉毛が下がっていく。
『あの、アサヒ先輩ですか??』