第10章 烏野の守護神
「澤村君と清水さんに聞きました。まだ入部したばかりでありながら、基本的なマネージャー業だけでなく、練習内容や選手達の体調にまで気を配って下さっているようですね。僕が監督として至らないばかりに、すみません。」
『そ、そんな!先生、謝らないで下さいっ。私が勝手にっ。』
「特に清水さんは、貴方の事を本当に褒めていましたよ。貴方はとても頼りになるのだと。」
武田先生は、そう言ってふわりと笑った。
知らなかった。潔子先輩がそんな風に思っていてくれたなんて。
『わ、私は、男の子じゃないから、バレーは出来なくて。でも、皆の役に立ちたくて。その為に出来ることは、何でもしようって。』
きっとこれは、私のエゴだ。
ただ、皆の顔が曇るところは見たくないと、その為に動こうとしているこの行動は、自分勝手な思いかもしれないのだから。
「····あなたは、カスミソウのような女性ですね。」
『かすみ····そう?』
「カスミソウの花言葉は、”清らかな心”そして”無垢の愛”。さん、あなたが選手達に向けてくださるその純粋な思いは、きっと届いて大輪の花を咲かせますよ。あなたは、純粋なその美しさのまま選手達に寄り添って上げて下さい。それが選手達の力になります。···っなんて、少しポエミーでしたかね。僕のいけない癖です。」
『···いえ、ありがとう、ございます。····先生のせいで、ちょっと泣きそうです。』
「えぇ!?だ、大丈夫ですか!?重ね重ねすみません!」
先生は慌てて頭を下げたかと思うと、またこちらを見てニコリと笑った。
「僕もね、出来ることは何でもしようと思っているんです。さんばかりに負担をかける訳にもいきませんから。そこで、これから烏野が強くなるためにコーチを招こうと思うんです。」
『本当ですか?』
「はい、彼も相手が音駒高校となれば動く筈。僕が頑張って勧誘しますから、これからも宜しくお願いしますね。」
『っはい。楽しみにしています。』
「では、僕はこれで。早速、また勧誘しに行ってきます。後を任せますね。」
『はい。』
武田先生は、よろしくお願いします。というと、また慌ただしく体育館を出て言った。
先生の背中を見送って、練習の手伝いに戻る。
私の胸には、何かポカポカとした心地よいものが燻っていた。