第8章 緊張を解すには?
「母さん、ちょっと出かけてくる。」
蛍の家の玄関から、蛍の喋る声が聞こえてきた。
「帰ってから食べる。·····とすぐそこのスーパー。」
なんと!聞こえて来た蛍の言葉に驚く。
いつも優しい優しいとは思っていたけど、そんなことまで。
そんなことは申し訳ないと、どうにかしようとするけれど勝手に入っていく訳にも行かないし、蛍の口は止められない。
「は?いいって。·····ちょっと、母さん!」
あわあわと、蛍の家の門の前でうろちょろしていると、蛍の家から蛍と一緒に蛍のお母さんが出てきた。
ぱっと蛍のお母さんと視線が合うと、蛍のお母さんがエプロン姿でこちらに走り寄ってきた。蛍はお母さんに似てるのかな。やっぱり面影がある。
「あなたがちゃんね。少しだけ蛍からお話聞いてたの。お隣さんにこんなに可愛いお嬢さんがいらしたなんて。」
『あ、あの、は、初めましてっ。』
「蛍、難しい子だけどいい子だから、仲良くしてあげてね。」
『は、はい。』
「ちょっと、母さん、もうやめてよ。行くよ。」
『え、蛍、あの。』
「ふふっ、行ってらっしゃい、気をつけてね。」
蛍のお母さんの言葉を背に聞きながら、私の手を掴んで歩き出した蛍とスーパーまで歩き出した。
『·····蛍?』
「なに?」
『あ、あの。手を。』
「っつ。·····ごめん。」
ずっと手を繋いでいるのが恥ずかしくて、少し歩いたとこで声を掛けると、弾かれたように手を離した。
何となく気恥しい気持ちのまま、隣を歩く。
『蛍、ありがとう。蛍は、優しいね。』
「は?·····別に、優しくないよ。」
そんなことないよ。だって、やっぱりこうして歩幅を合わせてゆっくり歩いてくれる。
「あのさ、こういう時は声掛けなよ。」
『え?』
「暗いんだから、1人で出かけたら危ないデショ。」
隣に住んでるんだから。そう言って、蛍は私の頭をポンポンと撫でた。
何だか、蛍のその優しさに涙が出そうになる。
やっぱり、1人で寂しかったのかな。隣を歩いてくれる蛍の優しさと、頭を撫でる手の温かさに何だか堪らなくなる。
『ありがと。』
「ん。」
零れそうになる涙を何とか抑えて、情けない顔を隠すように私は俯いた。