第1章 つないだ手
月が明るい綺麗な夜空だった。金色の砂丘群が地平線まで広がる砂漠の国、鳳凰。先程瑠璃達は野営の支度をしていたから、明るいとはいえもう就寝する頃だろう。
俺は一人砂の大地に座り込んでいた。
眠れない。眠りたくない……ましてやあんな人間の多いテントの中で眠れるものか。俺は…違う存在だから……
「深栗!」
遠く後ろで声がする。振り返ると月白がこちらに走って来る姿が見えた。
「やっと見つけた…!どこまで行ったのかと思ったよ」
息を弾ませながら、月白は持参した毛布を俺の肩に掛けた。
「ずっと外に居ちゃ寒いだろ?さ、パオに戻ろう」
彼はそう促したが、動かない俺を見て足を止める。
「…どうした?行くよ、深栗」
「……俺は…いい……寝たくないから…」
こちらを気にする月白の視線から目を逸らし俺は呟いた。
「ばっか、寝ないと明日辛いぞ?倒れたらどうする…」
「倒れれば…いい…」
驚きと困惑の混じった彼の言葉をさえぎって、俺はなおも告げた。
いっそこの体が壊れてしまえばいいんだ…。俺の居場所は無い……あの時に朽ちるはずだったのに。
「何言ってんだ、そんなのオレが許さない」
ふいに力強い声が響いた。
呆れて去って行くだろうという俺の予想に反し、月白は俺の傍を離れず真剣な表情で静かにこちらを見つめている。
「…何故だ…俺のことなど放っておけばいい…」
「そんな訳にいくか、仲間なんだから」
戸惑う俺を諭すように、彼は芯のある声ではっきりと言い切った。
「お前が倒れて喜ぶヤツなんかいないよ。さあ、帰ろう」
にこやかな笑みを向けてきた彼の表情、それは作られたものではなく、彼が心の底からそう思い、そう信じている気持ちが表れているように感じた。
「おいで、深栗」
月白は微笑んで手を差し伸べる。月の光を吸い輝きを放つ金色の髪。それに負けないくらい澄んだ瞳。
…綺麗だ……
手を借りずとも立ち上がれた。けれどまるで吸い寄せられるように、救いを求めるように俺はその手を掴んでいた。
月白の手は、あたたかかった。
この手を離したくなくなった…と言ったら、お前はどんな顔を見せるんだろう…?
end