第1章 まだ見ぬ未来へ
城の大きな窓から空を眺める。今日も晴れ渡った良い天気。
そういえば、朝から紅さんを見ていない。今日は国の水源確保についての話し合いがあるはずなのに…またサボってるのかな?
あたしは城内を探し回りながら、騎士団にも顔を出してみた。
「紅様なら、さっき厩舎の方で見かけた気が…」
「ありがと、白銀さん!」
白銀さんから有力情報を得て厩舎に行ってみると、らくだを一頭柵から出している紅さんをようやく発見する。
「紅さん、いた…!」
「おう、出掛けんぞー」
「え…どこ行くの?」
「砂漠の調査に決まってンだろ?途中で甘栗買ってな」
らくだの背に鞍を付けちゃっちゃと用意する姿を、あたしは感心しながら眺めてしまった。
「何ていうか…やる気満々?」
「……悪ぃかよ、お前と出掛けてえだけだし」
水をさされて紅さんはふて腐れ気味に呟く。でも、それはあたしにはすごく嬉しい台詞。
「珍しく素直だね」
「るせー」
街で買った甘栗を片手にぽくぽくと砂漠を渡り調査開始。現在の水源の様子見と、新たな泉の探索が目的だ。
「貴重な水源をどう使うか…みんな必死だな」
「それはそうでしょ、紅さんも他人事じゃないよ?」
「わーってるって」
「でも、これが本来の…あるべき姿なんだよね、きっと」
「そうだな…枯れない泉なんて虫が良過ぎる話だ」
泣いたり笑ったり、将来に不安を抱いたり夢を描いたりしながら、毎日を精一杯生きる。未来がどうなるか分からないからこそ、人は頑張れるんじゃないかな。
紅さんと出会って、それを再確認出来た気がする。
「……で、お前はいつ世継ぎを産んでくれるんだ?」
突然話題が逸れ、冗談のような本気のような声が耳元に降ってきた。
「ええ?世継ぎって…紅さんだってまだ王様になってないのにっ…」
「父上も孫の顔見たがってたんだけどなァー」
ニヤニヤしながら紅さんがあたしを見下ろす。頬が染まる思いがしてあたしは横を向いた。
「……然るべき時期に授かります!」
「…わかったよ」
紅さんはぽんとあたしの頭に手を置いた。その優しい仕草に少し驚いて向き直ると、触れるだけのキスをされる。
「愛してるぜ」
見つめ合う瞬間、触れ合う瞬間、願わずにはいられない。
紅さんとずっと一緒に、この国を守っていけますように…
end