第3章 丘の上
「そろそろ行こう。」
着替えを済ませ、大きなボールを両手で抱えて外に出た。
青々とした丘の上を流れる風は、とても心地よかった。
雲一つない空に太陽が堂々と居座り、その光が僕を優しく包み込む。
瞳を閉じれば、囁くように鳴く鳥の囀り。
父さんが気に入るのも無理はない。
多種多様な感情が複雑に混ざり合った息苦しい世界。
そんな世界の傍らに、感情の存在しない場所がいくつかある。
この丘もその一部に過ぎないだろう。
人の繊細な心を忠実に書き表したかのようなこの丘は、全ての者が望む存在。
人が持つ本来の理性が、このような場所をずっと追い求めてきた。
僕のお父さんもそうだ。
『じゃぁ父さんは変わり者じゃなかったのかな・・・?』
今更考えても仕方がないのに、なぜか気持ちが楽になった。
この世界は思った以上に美しく、そして儚い。