第6章 電話の指示で...~二宮和也~
理由はたった一つ。
「寂しかったから」だ。
わたしには好きな人がいた。
高校2年の冬、学校帰りにふらっと立ち寄った小さな喫茶店で温かいコーヒーを淹れてくれた人。ネームプレートには「和」って書いてあった。
特別優しくしてもらった覚えはない。
理由もなく、ただ好きになってしまったのだ。
あの日から5年。
時間ばかりが過ぎて、とうとう私は最後まで、和さんに見合う女性になんてなれなかった。
「好きです。」
子供じみた言葉。
でも、こんなたった一言が伝えられていたら、少しは変わったのかもしれない。
現実は残酷だ。
彼は突然、お店を辞めてしまったのだ。
マスターにきいても、行き先はわからないという。
あーあ、なんてバカなんだろう。
言葉にできない想いは、年齢と共に欲望まで膨らませていく。
「初めてが和さんだったらいいのに。」
告白もできないくせに、私はこんな願望さえ抱いていた。
とことんイタい処女だ。
たった一人の人を想うあまり、なんの経験もせずに過ごしてしまった。
夜な夜な一人で自分を慰めることしかできない。
終わった後は、虚無感との戦いだ。