第4章 episode3
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大勢の怪人の肉片と返り血の中にそのヒーローは立っていた。
振り返ってへたり込んだメリィに大丈夫かと声をかける前ほんの一瞬だけ見せた、世界中が敵に見えているような余裕のない血走った目が印象的だった。
あの瞳の所為で、
助けてくれたはずなのに、助けを求めているような
非の打ちどころのないアイドルなのに、
余裕のないギリギリの場所で立っているような印象がずっと拭えないでいる。
助けて貰ったのに、「大丈夫ですか」なんて此方が尋ねてしまって、
きゅうと結んだ口は何か吐き出すのを耐えたようだった。
だから――私の事を見ている余裕なんてないはずなのに、と、メリィは思ってしまうのだ。
スポットライトに照らされるたびに、影を孕んだ瞳が浮きたっていく、
荷物<私>を持つ余裕などないのにその手を離さないのなら、
私はせめて支えでありたい。
メリィを乗せたタクシーは予定の時間より幾分と早く着いたが、
その男はそれよりも早く現地入りしていた。
「お待たせしてすいません、先輩――”お疲れ様です”」
メリィは、無意識に催眠音声を放つ。彼をねぎらう言葉を吐くときに、その色を乗せてしまう。
振り返ったスーパースターはふ、と小さく息を吐きだして、纏う空気を穏やかにする。
「お疲れ。メリィ、怪我はないか?」
「はい、大丈夫です。……行きましょう、先輩」