第2章 一戦を越えて
バンッという壮大な音と共に鍵が壊された扉の中にはこれもまた、ケータイを両手で持ち、ガタガタと震え、顔は青ざめている少年が一人、便器の上に座っていた。
夜トは、ほうら、とでも言うように少年に向かって手のひらを裏返してひよりに向けた。
「ち、違うんです!!これは…っ」
少年は涙目になって首を降ったが、スコーンッという軽快な音と、ぎゃあーっという悲鳴が再度、女子トイレ内に木霊した。
ひよりは鬼のような形相でガッとブラシの取っ手部分を床についた。
「す…すみません…でも本当にのぞきとかではなくて…」
ひよりの前に正座をする男が一人増えたと思えば、顔を青ざめていた少年がうつ向きながら口を開いた。
「同級生にイジメられるから隠れてたんです…」
少年はボソボソとトイレにいた生い立ちを説明しだした。
萩原学君。
中学2年生。
休み時間になるたびからかわれるので
絶対見つからない所に隠れてたんだそうです。
「先輩ごめんなさい!どうか誰にも言わないで…」
少年は床に両手をつき、必死になってひよりに懇願した。
ひよりの胸には«先輩»という語句が強く響いた。
「そういうことなら言わないけど…」
ごめんね、先輩なのに棒で殴って、と、ひよりはすすり泣く少年にハンカチを出して謝った。
反対側では「こっちにもあやまれ」と、たんこぶだらけの神様がひよりに目を細めてひがんでいた。