第6章 いちょう
城へ戻ると、それはそれで何か大変だった。
座敷の中に充満する、銀杏の臭い。
幸は顔をしかめて鼻を摘まんでいるし、信玄さまは熟れた銀杏の身を一生懸命つついている。
「だから、ばけのばからないぼのは食ううじゃねーって、しヌげヌさば」
「独眼竜は料理好きと聞く。そいつが興味をもったなら、食べられるもののはずだ」
信玄さまも家康公に会ったのか。
あ………だから早く帰れって…そういうことか。
「信玄さま、それはそのままじゃ食べられませんよ」
「ほらー。てか、佐助どこ行ってたんらお」
「その正体を探りに」
「って、もうらめら、臭ぇ!!」
よほど臭いに辟易したのか、幸が部屋を飛び出していった。
「佐助、どうしたら食えるようになる?」
「周りの身を削ぎ落とさなきゃいけないので、しばらく掛かります」
「そうなのか……」
信玄さまは、それはそれは哀しげに、力なく銀杏を突っつき回した。
――今日の信玄さま――
『早く食べてみたいもんだ』