第14章 それぞれの戦い⑤~和也~
俺は就職した介護サービス会社が、業務委託を受け負う市立の養護老人ホームにて働く事になった
直ぐに思い描いていた介護との、余りの違いに……いや仕事内容とかじゃなくて
市の職員と、介護サービス会社の職員の立場の違い。とか。 施設内で当たり前に行われている事の
余りの悲惨な惨状に
俺はショックを受けたんだ
-
和也『あれ、新川さんどこか行くんですか?』
『子供にご飯を作らなければならないから帰らなきゃなんだよ』
和也『 そっかもう夕方だもんね』
認知症のお年寄りにとって、施設内の廊下を歩き回るにはきちんと意味があるんだ
例えば 一日中歩いているおばあさんはさ
『子供にご飯を作らなければならない』
おじいさんは
『仕事に行かなければならない』
黄昏時と言われる夕方になれば
『子供を迎えに行かなければならない』
『夕飯を作らなければならない』
『家に帰らなければならない』
その人その人の深い理由があるんだ
和也『新川さんは凄いね。 朝から晩まで働いて大変なのにさ。子供さんのご飯を毎日きちんと手作りしてさ』
『それが親と言うもんだよ』
俺は、新川さん。入居者のおばあさんと一緒に歩きながら、ちょっとでも気持ちが他に向くキッカケは無いかな? って探りながら……
『二宮くん、○○ちゃんは一時間も歩いてるの。『家に帰える』しか頭に無いし。もう車椅子に乗せて!』
和也《……》
あり得ないだろう? お年寄りに向かって"ちゃん"呼びとかさ……
車椅子に乗せて=車椅子の後ろに紐を付けて廊下の手すりに……
『拘束』
お腹にベルトを巻いて…… 車椅子から立ち上がれない様に……