第7章 悪夢-★
雨の中立っていた。
雷が鳴り響き、思わず悲鳴が漏れた。
崩れた土砂、折れた木の破片、異様な方向に首が曲がった馬、静かに回る車輪、ぺしゃんこに潰れた馬車。
血の臭い。死の臭い。
『あ』
潰れた馬車に上半身を埋められ、ピクリとも動かない馬車の御者。
『父さん』
馬車から放り出され、朽木に身を串刺しにされた父。
『母さん』
潰れた馬車からいつもと違う、真っ白な腕しか見えてない母。
再び、雷が鳴り響く。
思わず喉の奥が熱くなり、胃から何か熱い物が逆流してくる。
必死に堪えたが、嫌悪感はその場で吐き出された。鼻の奥が熱い……胃酸の臭いがした。
『うわあぁぁぁああああぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!』
やっと心が身体に叫ぶ事を許した時には、全てが終わっていた。叫びながら、潰れた馬車の破片を素手で除けた。割れた木や硝子が手に突き刺さっても痛みは感じない。少年は死に物狂いでまだ生きてる「かもしれない」母を助けようとした。
「もうやめてくれ」と脳から指令を送れなくなった両手が、温かな母の肌の温もりを求めた。大きな木材をやっとの思いでどけ、息を荒げながら母の腕から先を視線で辿った。