第30章 映る
「兵長、やっぱりベンは何か調子に乗ったのでは…?」
リヴァイをマヤが覗きこむ。
いや…と言ったきりだから、少々心配になってきたのだ。
なにしろ “西方訓練兵団きってのお調子者” のベンのことだ、きっとリヴァイ兵長に失礼を働いたに違いない。
そんな考えがマヤの頭に浮かんで離れない。
「……調子に乗ったと言えばそうかもしれねぇが、どうも憎めねぇ野郎だ…」
「ふふ、かもしれないですね」
まったく仕方がねぇなといった風情のリヴァイの顔を見て、マヤは安心した。
……そうだわ、ベンはいつだってあの調子でみんなを巻きこんで、結局最後はうまくいくんだった。
「兵長がいないのは少し淋しいけど、親睦会行ってきます!」
「あぁ、楽しんでこい」
リヴァイはそのまま行こうとしたが、やはりどうしても伝えずにはいられなくて。
「……あまり目立つな」
「………?」
リヴァイの言っていることがよく理解できずに、ただ首をかしげるばかりのマヤ。
「それはどういう意味ですか…?」
「………」
言いたいことが伝わらずに、苛立つリヴァイ。
……それでなくても女はペトラと二人きりなんだ。ユトピアの野郎たちに目をつけられたらどうする。
大体あのベンはやたら張り切っていたが、よもやマヤを隙あらばどうにかしようと思ってんじゃねぇだろうな。
大いにありうる。
あの月夜の図書室でザックも言っていたじゃねぇか。
マリウス以外にも、マリウスと首席を争ったショーンやザック、そしてそれ以外のヤツらも、みんなマヤに惚れていたって。
その “それ以外のヤツら” のなかにベンも入っていたんじゃねぇのか?
………。
駄目だ。行かせられねぇ。俺のいねぇところでマヤを他の男の目にさらすなんてことはよ…。
リヴァイの眉間の皺がますます深くなる。それに比例して苛立つ気持ちも激しくなっていく。
どうしてこのような想いにとらわれてしまうのかもわからずリヴァイは立ちすくむしかなかった。
この気持ちが嫉妬だとか独占欲と呼ばれるものだとは知らずに。
「大丈夫ですよ。調査兵の威信にかけても変なことは言わないように、おとなしくしておきますから」
にこにこしているマヤ。どうやら盛大な勘違いをしているらしい。