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アフタヌーンティーはモリエールにて

第6章 夢見心地のマドレーヌ


「可愛くねぇやつ。」
「自覚してまーす。」


煽るようにそう返す杏奈に、そういうところが特になと、松田は杏奈の頬を抓った。
あにひゅるんでふかーと、杏奈は松田を睨みつける。しかし、頬をぐいっと引き伸ばされた所為で、滑舌も悪く、更に面白い顔になってしまっている彼女に睨まれたところで、全く怖くない。

ほんと、全然こわくねぇ。
抓られた頬は赤く染まり、瞳には涙の幕が張っている。幾ら睨みつけられたところで、可愛らしいと感じるだけだ。


「ほら。ふざけてねぇで、行くぞ。」


フッと笑って、満足した松田は頬から手を離し、彼女の小さな頭をくしゃりと撫でた。
撫でられた頭を触った杏奈は、落ち着かない様子で視線を彷徨わせると、大人しく松田のとなりに並んだ。

揃って杏奈の自宅への帰路をたどりながら、取り留めもない話をする。次第に杏奈の心臓も落ち着きを取り戻し、普通に会話を楽しんだ。


「……あ。もうここで大丈夫ですよー。」


しばらく歩いた頃、あれが家なんでーと、杏奈は自分の家を指差す。
しかし松田は、へー…と興味なさそうにつぶやくだけで、歩みを止める様子はない。

歩き続ける松田にあわせていたら、いつのまにか自宅の前についてしまった。


「わざわざ送ってくれて、ありがとーございましたぁ。」


ふにゃーっと頭を下げる杏奈に、松田は謙遜するでもなく、おうと一言、ぶっきら棒に返す。
相変わらずの彼の様子に、へらりと笑って頭を上げた杏奈の頭に、松田はぽんと手を置いた。


「おやすみ。」


くしゃりと頭を撫でた。
しかしそれは一瞬で、松田はすぐに杏奈の頭から手を退かすと、彼女の反応も待たずに背を向け、歩き始める。

遠くなる松田の背中に、杏奈はあわてて声をかけた。


「……松田さんも、おやすみなさーい。」


ご近所の迷惑にならないように、声量を抑えた彼女の声は、ちゃんと松田に届いたようで。松田は背中を向けたまま、ひらひらと手を振った。

その背中をしばらく見送っていた杏奈だが、道の角を曲がったことで松田の姿は見えなくなった。
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