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アフタヌーンティーはモリエールにて

第3章 意地悪なマシュマロ


「はい。お客様に尋ねられて、私のオススメを提供させていただくことは多いですね。」


モリエールに訪れるお客の大半は、常連だ。つまり杏奈の淹れる紅茶が絶品であることを知っている。
常連客の大半はその日の気分だけを伝え、あとは杏奈の好みで紅茶を淹れてもらう。
どんな紅茶がくるかは飲むまでは分からない。しかし絶対に外れない。そのドキドキとワクワクを楽しみにしているのだ。

普段からよくやっていると答える杏奈に、なるほど道理で自分の好みにあった紅茶を淹れられたわけだと、男は納得してティーカップに視線を落とす。


「あ、でも…初来店のお客さんにやったのは初めてかもぉ。」


ぽつりと聞こえた杏奈の言葉に、男は顔を上げた。
しかし杏奈は自分が言ったことに気付いていないようで、ぽけーっと宙を見ている。彼女の悪い癖が出てしまっただけのようだ。

思わずぽろりと考えていたことが声に出てしまっただけで、気付いていない杏奈は、自分を見上げる男の視線を受けて、どうかしましたか?とでも言うように首をかしげる。

杏奈の様子に男は、口を開いた。


「あーー」
「アンちゃーん、お会計頼むよー。」


男がなにか言い終える前に、常連客の男がカウンターの中の杏奈に言葉を投げる。
杏奈は、はぁいと緩く返して、何か言いました?と首を傾げ男をみた。

男は開きかけていた口を閉じると、いや…早く行ってやれとクイっとレジの方を顎で指す。本人が何でもないと言うならばいいかと、杏奈は常連客の待つレジカウンターへと向かった。

パタパタとかけるでもなく、のんびりと歩いて向かう杏奈の後ろ姿を見送って、男はティーカップへと口付ける。
口に広がる風味は変わらず自分好みで、男は自然と緩む口元をカップで隠した。


「はい。お釣りとポイントカードのお返しー。」
「ありがとう。今度は森さんのコーヒーを飲みにくるよ!」


ニヤニヤと揶揄いの表情を浮かべる常連客に、私のコーヒーも飲んでくださいーと、杏奈はわざとむくれたように唇を尖らせる。
その反応に美味しいコーヒーを淹れられるようになったらねーと手を振り、常連客は笑いながら颯爽とモリエールを後にした。
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