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アフタヌーンティーはモリエールにて

第3章 意地悪なマシュマロ


「お客様はおタバコを吸うようでしたので、スモーキーな香りの強いラプサンスーチョンと、甘いフレーバーのカラメルティーを少量混ぜさせていただきました!」


タバコの銘柄にもよるが、中にはバニラや蜂蜜などの甘い香りのものがある。実際、杏奈の父が吸っているのがその類のタバコだ。杏奈は喫煙経験はないが、その香りはよく 知っている。

タバコの香りをイメージしてブレンドしたこの紅茶は、杏奈が父の日に彼女の父親のために試行錯誤して作ったもので、大変好評だった。今ではすっかり父も紅茶党になるくらいには。

キラキラと輝く笑顔を浮かべる杏奈を見た男は、サングラスの奥の瞳を僅かに見開いた。
そして徐に手を伸ばし、テーブルの上にあるカップを取り、杏奈の淹れてくれたオリジナルブレンドティーを、一口含んだ。

舌の上で転がした琥珀色の液体は、程よい渋みと酸味があって、次いで鼻腔にスモーキーで甘い燻香が広がる。よく親しんだそれと良く似た香りは、紅茶なのに喫煙したときのような満足感があって。正直、好みの味わいだ。
男は不覚にも最初から彼女の言う通り、紅茶を頼んでおけばよかったと後悔した。


「……アンタ、いつもこんなことしてんのか?」


男はティーカップをソーサーに置いて、杏奈に問いかける。
しかし問いかけられた杏奈は男の言っている言葉の意味が理解できず、こんなこととは?と首を傾げた。

その様子に男は僅かに苛立った様子で、だから…と言葉を続ける。


「客に合わせて紅茶選んでんのかって、聞いてんだ。」


コーヒー党である男は飲食店で紅茶を頼む機会は殆どないが、こうしてお客の好みに合わせて紅茶を提供する店は、あまりないだろうことは分かる。あったとしても、アンケート用紙のようなものを渡し、お客自身に好みを記してもらう形を取っているだろう。

しかし杏奈は好みを聞くことなく、男の好みどんぴしゃの紅茶を淹れてみせた。これを普段からやっているのならば、大したものだ。

男の言葉の意味を理解した杏奈は、あぁ!と納得したように声をあげる。
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