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星条旗のショアライン

第10章 スティーブ&トニー(MCU/二次創作)



(4)

「これはこれは。お早いおかえりだな」
「まだ居たのか……」
結局、休憩室へ蜻蛉返りしてしまうと、よほど暇なのかトニーが奥まった場所に設置されているソファにふんぞり返っていた。足を組み替える姿の仰々しいこと。呆れて溜め息をつきつつ背を向けてコーヒーを淹れ直す準備を始めれば、背後で立ち上がる気配がした。構ったりしなかったから退室するのかと思いきや軽やかな足取りは俺の背ぎりぎりまで続き、おもむろに腰を抱かれて肩越しに手元を覗き込まれる。
「なんなんだ、いったい」
「私にも滝れてくれよ」
「腰の手を退かしたらな」
「別に良いだろう、互いに癒しを求めてる。これくらいの触れ合いは犬に噛まれたものだとでも思うんだな」
「……聞き分けのないわんちゃんだ」
「悪戯好きな犬は嫌いかな?」
ああ言えばこう言う。上手く会話をしているのかどうかも怪しくなってくる。でも心地良かった。何も考えずに頭を空っぽにしていれば事足りる距離感が今の俺には、とても。トニーの言う通り、俺は結構疲れているみたいだ。ただ戯れに他人と触れ合うことがこんなにも癒される行為だったなんて。
「ところで君は何があった」
「私? 何故」
「互いに癒しを求めてると言っただろう。君の場合は何があったんだ」
「ああそれか。そうだな……君と同じということで頼むよ」
「俺と?」
理解が及ばずに振り仰ぐとトニーは優しい笑みを噛みながら見下ろしていた。いつも俺と顔を合わせれば飄々として軽口を叩いてばかりの彼にしては珍しい態度だ。成程、こうして大人しく微笑んでいると確かに人を誑し込む魔力を秘めているかもしれない。
警戒心剥き出しだった野良犬が心を許してくれたみたいでなんだか嬉しい。そんな事を直接伝えたらきっとまた機嫌を損ねるに違いないけれど。なんだか無性におかしくなって頬が緩んだ。トニーも片想いに疲れて身を焦がす人間らしい一面があったのだなという発見のせいかもしれない。慰める様に頬を合わせて唇を鳴らすと、トニーの髭がさりさりと口元を擽ったから彼が笑ったのだと知れた。



終わり?
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