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星条旗のショアライン

第23章 カート・ヴォーン(CABIN/R15)



「い"っ!」
「っ」
「……なにしてんだ、なにしてんだよっ!」
化け物が姿を消した時を見計らい、カートには悪いけど背中の傷に爪を立てた。激痛に震えた彼は僕を地面に振るい落として反射的に背中を庇うが、そのまま身体を転がし距離を取った僕を不審がって、たたらを踏んだ。もう時間が無い事は本能が分かっている。後ろから気配が迫り、鎖の音もする。カートが大声で僕を呼び続けて腕を広げて居るけれど、そこに飛び込む気はない。
(カート、君は良い奴だ……)
――……僕の人生は彼に出会って好転した。奨学金を得て留学した僕に余裕なんかなくて、来る日も来る日も机に齧り付き続けた。でもそんな要領の悪い勉強法のせいで次第に落ち込み出す成績に焦り、躍起になってカンニングを仕込んでしまった日に声を掛けてくれたのが君だ。君は社会学を専攻していて、見た目に反して秩序を重んじた。カンニングペーパーを奪い、僕を冷静に叱り、ガス抜きの仕方を教えてくれた。その日から目に見えて成績は向上して安定する。カートを通してデイナやマーティという友達にも恵まれて精神的にも余裕が生まれた。君は僕を変えた。下心があったとしても、君は僕を幸せにした。もう充分だ。……充分だ。



終わり
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