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星条旗のショアライン

第22章 コリン・シー(Wyn)



「そ、そうですか……じゃあ、えと、出直した方が良いですよね。今は悪いから」
「そんな。良いのに。聞いてるよ、レインくんだろ。僕が勝手に転がり込んで君の元カノの部屋にお世話になっただけだから。お世話って言っても主に寝床の提供。彼女はベッド、僕はソファって言えば安心するかな。ほら中に入って確かめて」
「!」
……――確かにアリーは俺の元彼女だけど、今の彼氏と何をしていても気にしない。気にしない明確な理由が俺にはあって、アリーもそれを分かった上で恋人関係を解消したし、そして未だに友人関係を続けてくれている。
今回も相談に乗って欲しいという話だったから遠路遥々尋ねただけで、彼女の新しい恋に嫉妬したり、ましてや未練や執着で押し掛けるような馬鹿げた真似は神に誓っても有り得ない。
(だって俺はゲイなんだぞ……!)
アリーは天真爛漫で行動力がある素敵な女性だ。確かに少しおしゃべりな部分もあるけれど、俺の秘密は絶対に内緒にしてくれている義理堅い一面もある。そんな彼女から『聞いている』って何をだ。
(まさか……)
俺に対して気を使うようにアリーの部屋に居たワケを釈明したけれど、仮に俺の『秘密』を聞いていたのならその行動には絶対に至らない。この矛盾から導き出せる答えはただひとつ。
(……こいつ、俺に鎌を掛けてる……!)
怒ったり追い返したり、そんな簡単な事で俺を逃したりしないつもりなんだ。怪しい人間をわざわざ懐まで招き入れるような大胆な真似をするなんて。実際にはアリーに俺の事は聞いていない、なのに俺を知っていて部屋に入れようとしているこの状況、危険過ぎる。
「や、やっぱり出直します、すいません、アリーには宜しく言っておいて下さい、それじゃ!」
形だけの謝罪をして背中を向けるともうダメだった。恐怖で涙腺が緩んで涙が眦を潤ませる。それを乱暴に袖で拭いながら慌てて階段を駆け下りている最中であっても「待ってよレインくん」と平然とした声音が俺を呼ぶ。形式張った抑揚のない低い声。弾む息を飲みながらやっとの思いで四階に着いた時、つい見上げると、タオルを腰に巻いたあいつが六階の手摺に広げた両手を付いて俺を見下ろしていた。目が合うとひらひらと片手を振り、「また会おうね」と嗤った。



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