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星条旗のショアライン

第21章 ルーカス・リー(SPvsW/第三話)



(8)

しつこいようだけど俺は自身をゲイだとは思ってない。今まで付き合ってきた人も女性だし、興奮した人も女性だし、童貞を失った人も女性だ。そこに違和感を覚えた事なんて一度も無かったし後悔した事だって一度も無かった。
それがここにきて筋肉質な男から猛アピールを貰うような体質になってしまったばかりに全てが覆っていく。自分が口説かれる側で……しかも恐らくは女役を求められているのだろうと思うと、脳みそが瘙痒感でいっぱいになって暴れ回りたいような感覚と吐き気に襲われた。
なのに今度は自分から相手に求愛するだって? スコット、それは無茶って奴だ。確かにトッドは格好良い。顔も身体付きも格好良い。でも格好良いだけだ。ああなれればという憧れの延長上に好意はあるけど愛欲という情は抱いていない。
躊躇っているとスコットが「はりーあっぷ」と叫んで俺を急かす。こんな爆音のさなかであっても俺が分かる英単語で叱ってくる辺りが憎めないというかなんというか。続けて「覚悟を決めるんだ!」と吠えられれば、渋々頷くしかない。
(――でも、なんて言えば……)
男の口説き方なんか分かるわけない。やった事がないことを求められるって難しいんだ。試しに「大好き」と念じると、彼は分かりやすいくらいに全身を不自然に揺らして動揺した。「愛してる」と念じると、首や肩周り、腕に至るまでを可哀想なくらい朱に染めた。
あー……成る程、これでいいのかな。分かりやすい。でも、そう思って続けざまに愛を伝えてもイマイチ決定打に欠けるみたいで、演奏を取り零したり打ち止めるような事態には陥らない。寧ろ俺に良いところを見せようとしてみるみるうちにコードは激しさを増し、その指使いや腕の躍動、下半身の重みが、スコットのヒットポイントを削り取る為の鋭さを取り戻し始めてしまう。
(……!)
風が巻き起こり、コールドカップがスコットにぶち当たる。その度に手元を見失って目を瞑るから、今度は彼の方が調子を崩し始めた。比例するように勢いを整えてきたトッドはいよいよベースヘッド振り抜きながら音の塊を具現化させて直接攻撃を可能にしている。その証拠に、スコットが頭を抱えて苦しみだした。やばいやばい。

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