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星条旗のショアライン

第16章 【長編】2019年 Xmas企画③(MCU/蛛and医)



(これならそこまで待たされないか。よし)
カフェまでの指針を尻ポケットに捩じ込み、入れ違いに財布を抜き出す。簡素な入店音と店員の溌剌とした挨拶を浴びながらガラス扉を押し開けると、焼きたてのベーグルと挽きたてのコーヒーの香ばしい匂いが一気に鼻腔を擽った。厨房からも肉を焼く音が惜しげも無く響くから、食べる予定のなかったスタミナのあるベーグルサンドを頼みたくなったりもして。腹が鳴るのも時間の問題だ。
(確か具材や調味料は色々指定できるんだったな)
列に合流する。俺の前を進む女性が男性店員に向かって慣れたように声を掛ける姿を成り行きで見守っている内に俺の後ろへ別の客が並んだ。冬に相応しいニットのマフラーを巻く痩身の少年だ。彼はスマホ画面を見詰めながら俺との距離を勘で測りながら進んでいる。器用な事だが、歩きながら電子機器を弄るのは感心しない。
(……)
お節介だとは思った。しかし日々を善行に費やす身である限りは事故を未然に防ぐ事が必要だとも思ったのだ。わざとたたらを踏んで少年から俺にぶつかるよう仕向けると、彼は見事にスマホを持つ手で俺の肩甲骨を軽く小突いた。初めは反省の色を含まない声音で「すみません」と呟いただけだったが、視線を上げて自分が『誰』にぶつかってしまったのかを理解した途端に顔色を変えた。
「うそうそうそっ、キャプテン・アメリカのっ……!」
握っていたスマホを投げ捨てる勢いで腕を振り下ろしながらも喜色に弾んだ声を上げた少年は年相応の幼い表情を見せた。そこに喜びと罪の意識が織り交ざった複雑な胸中を無防備に反映させている。歩きスマホがマナーのなっていない行いである自覚があって何よりだ。
と、ここまでは予定通り。過ちを理解してもらえるだけで良かったのだが、少年は思っていたよりも貪欲で素直だった。有名人が居る事を周囲に認知させようとしているのか、きょろきょろと忙しなく店内へ視線を散らし始めてしまった。大音声で名を呼ばれてしまえば最後、マンハッタンの店の時と同じ末路を辿ってしまう。
「待て、坊や」
「……っ」
取り急ぎ出た呼称に自身の動揺を知る。俺やスティーブからしてみれば誰だって赤子のような年齢だが、本人に面と向かって『坊や』は失礼過ぎるだろう。取り繕うように咳払いをして発言を訂正しつつ、注目を得る為に少年の眼前へ人差し指を翳した。一対の寄り目が揺れる。

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