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星条旗のショアライン

第15章 【長編】2019年 Xmas企画②(MCU/鷹and邪)



S.H.I.E.L.D.という特殊機関にヒーローの肩書きで籍を置いていようとも、労働するからには決まった回数の年次有給を取得しなければならないと釘を刺され、無理やり休暇をねじ込まれてしまった十二月の一週目。
現代に蘇ってからというものの、日々を善行に忙殺させていた皺寄せが今になって巡ってくるとは思わなかった。趣味らしい趣味も持たずにいた俺は、仕事を取り上げられた途端に『暇』という概念に囚われて『趣味とはなにか』というロジックに嵌り込んでしまったのだ。
そんな風に呆然としながら活気無く過ごす姿を見兼ねたスティーブが「今までやりたくても出来なかった事を見つけて行こう」と慰めの言葉を掛けてくれなかったら、日常の延長から少し凝り始めたといった程度の料理で穴埋めしようとは思わなかったに違いない。趣味とは手近な楽しみの延長で構わなかったのだ。
それからスティーブの助言通りにやたらと仕込みに手間のかかる煮焼きやスモークチップ炊きに挑戦してみたり、材料を本格的なものに変えてみたりと、毎日の三食を拵える楽しさで充分な満足感を得始めていた頃。食べる側のスティーブが「君の料理が美味し過ぎて、もしかしたら僕は太るかもしれない」と真顔で宣言してきた事もけっこう嬉しかったりして、インドアに拍車が掛かり始めた矢先の事だった。
「ん?」
夕食の仕込みを滞り無く終えた明くる日の昼過ぎ。休憩がてら土産で頂いたハワイコナコーヒーを煎れていればサイドボードへ置き据えていたスマホがメールを受信して震えた。ポップアップ通知にクリントの名前が見えて、直前まで見ていたレシピサイトをスワイプで消し、メールアプリを開く。
休暇前に片付けなければならない仕事の関係で提出した書類に不備でもあっただろうか。或いは、休暇中の人間の手まで借りざるを得ないような事件でも発生したのだろうか。頭を捻りながら開封してみるが、内容は至って難しい事もなく、先月の任務についての詳細を問うものだった。

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