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徒然なるままに【文豪ストレイドッグス】

第11章 板挟み


 彼の黒髪が床に落ちた。見えた地毛は明るい茶髪。人当たりの良い柔和な笑みを浮かべる彼は──

「じ、潤一郎くん!?」
「はい。張り込み潜入担当、武装探偵社の谷崎潤一郎です」
「否、あの、知ってるし!」

 パニックになりながらそう云うと、潤一郎くんはニコニコと笑みを浮かべた。

「其れは兎も角泉さん、髪切ったんですね。お似合いです。前の長い髪も善かったですが」
「そ、其れはどうも……。じゃ無くて! 何で潤一郎くんが此処に居るの!? 助けに来たって何!?」
「一寸落ち着きましょう泉さん」
「此れが落ち着いていられるかっ!」

 ぎゃんぎゃんと噛み付くと、潤一郎くんは観念したように両手を挙げた。

「先ずは静かにしましょう。余り騒ぐと僕まで捕まりますから」
「う……」

 ピタリと止まる。そうだ、わたしが喚いたらこの子まで危なくなる。と云うか、この子の命が危ない。わたしは一度深呼吸をしてから問うた。

「じゃあ聞くけど、何で君がいるの?」
「其れはね、潜入出来るのが僕位だからですよ」

 マフィアに潜入するなんて危険極まりない事、他の社員の人達では直ぐにバレてしまう。太宰さんと鏡花ちゃん、敦くんは顔バレしてるし、そうでなくてもそれぞれの個性が強過ぎて変装してもバレてしまう。事務員さんやバイトであるナオミちゃんにさせられる訳もなく。

「で、結局僕に落ち着いたって訳です」
「……成程、其れは判ったわ。でも『わたしを助けに来た』ってどう云う事?」
「言葉通りの意味ですけど……」

 潤一郎くんがきょとんとする。嗚呼、とわたしは少し考えた。言葉が足りなかったか。

「御免ね。でも危険を冒してまでわたしを助けに来る理由なんて無いじゃない?」
「嗚呼、そう云う事ですか」

 そう説明を加えると、潤一郎くんは納得した様に頷いた。

「泉さんが居ないと僕達が困るんですよ」
「…………はい?」

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