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徒然なるままに【文豪ストレイドッグス】

第16章 帰還


 電話を切ると同時に、また扉がノックされた。入って来たのは潤一郎くんだ。

「泉さん、具合はどうですか?」
「潤一郎くん! もうすっかり元気よ」
「まだ動いちゃ駄目なんですか?」
「そうなの、走るの禁止されて……」
「泉さん無茶しそうですもんね」
「ひどーい」

 くすくす二人で笑い合う。「そういえば」と潤一郎くんが話を切り替えた。

「さっきこの部屋から黒いオーラが見えたんですけど……あれ与謝野先生ですか?」
「あー……。悪い顔してたからね」
「それってもしかして……」

 潤一郎くんが柔和な笑みから般若のような恐ろしい表情に塗り替えた。
 すぐにまた何時もの笑みに戻り、「こんな顔でした?」とわたしに訊ねる。わたしは表情の落差の大きさがツボに入り、お腹を抱えて笑い転けた。

「あははっ、そっくり……! も、笑わせないでよ……」
「そんなに似てました? これ」

 云いつつまた般若顔になりすぐ戻る。わたしはまた笑い転げた。
一頻り笑って満足すると、潤一郎くんはまた話題を振った。

「そうだ、編みぐるみ? 有難う御座います! お上手なんですね」
「暇潰しで作った物だし気にしないで。喜んで貰えたなら何よりだし」
「皆喜んでましたよ。国木田さんも珍しく退かさず、寧ろ撫でてましたし」

 それは一寸見たかった。残念。
 因みに乱歩さんは編みぐるみと会話して、賢治くんは一緒にお昼寝、鏡花ちゃんは人形遊び、与謝野さんはプラスチック製の鉈を編みぐるみに持たせていたそう。

「ストレス解消と癒しになってました」
「ふふ、善かった」
「そう云えば太宰さんのは作らなかったんですか?」

 尋ねられてどきりとした。ちょいちょい、と潤一郎くんを傍に寄せて耳元でこっそり話す。

「実はね、わたしが持ってるの。可愛く出来たから、傍に置いときたいなって」

 本人には恥ずかしくて出来ないような事も編みぐるみ相手なら出来そうだし。っていうのは秘密。

「そうなんですか……」
「本人には内緒ね、恥ずかしいし」
「判ってますよ。泉さんは秘密多いですね」
「だって恥ずかしいもん」

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