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徒然なるままに【文豪ストレイドッグス】

第15章 生命を司る樹


「り、龍……」
「無様だな。誰にやられた傷だ?」

 龍は冷ややかにわたしを見下ろした。わたしは答えなかった。誰にやられた訳でもない、ただ自分の勝手で怪我を請け負ったのだから。
 何も答えないわたしに苛立ったのか、龍は自分の着ていたドレスシャツの裾をいきなり引き千切った。
 乱暴に破かれた其れを、龍はわたしの怪我より少し上の方に縛り付ける。どうやら止血をしているらしい。龍は仏頂面で付け加えた。

「貴様には借りがあるからな。返さねば気持ちが悪い」
「はは、有難う……」

 ぐっと足に力を入れて立ち上がる。先程よりはふらつきも少なく、まだ動ける状態だった。

「大丈夫ですか?」
「うん、大分ね。それより、白鯨を止めるには如何すればいいの?」
「其れが……止める為の制御端末を、フィッツジェラルドが持っているらしくて……」
「彼奴を倒さねば止められぬと言う訳か」

 龍の言葉に敦くんがこくりと頷いた瞬間、近くの壁が木っ端微塵に砕け散った。

「!?」
「此処に居たか、虎よ……。そしてポートマフィアの犬よ」

 間近で見た敵は背が高く、鼻筋の通った欧州風の顔立ちをしていた。顔や体には、異能の所為か緑の光がまとわりついていた。

「探させるなよ。お陰で一万ドルも無駄にした」
「……あれがフィッツジェラルドです。消費した金額に比例して身体強化が出来ます」

 敦くんがボソボソとわたし達に伝える。「潰しがいのありそうな輩だ」龍が愉しそうに笑った。怖い事言わないで。
 と、フィッツジェラルドが片眉を上げて此方を睨んだ。

「何をボソボソと話している?」
「何もしてないわよ」
「……俺は無視をされたり二番目にされるのがとてつもなく嫌な男でね。話をするなら俺も混ぜてもらおう」

 云うなり彼は目にも止まらぬ速さでわたしの目の前に現れた。

「泉さん!」

 敦くんの叫びが聞こえる。フィッツジェラルドはわたしだけを見つめ、わたしの襟首を掴み上げて宙に浮かべた。

「そうか……。お前がそうなのか……」
「……っ」

 ぞくり。背筋が粟立つのが判った。まずい、とてもまずい展開だ。このままだと、乱歩さんの云っていた通りになってしまう。

「三人まとめて、と云いたい所だが……。先ずは君から奪おうか」

 ぎりり、と首が締まる。わたしの体はさらに高く上がった。

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