第1章 パイセン
「なぁなぁキイチ、来月以降の二人の予定ってどうなってる?」
ナマエはよく、二人の後輩であるキイチに予定を確認してくる。それは二人の目を盗んで、ナマエが自立する第一歩として就職活動を行う為である。
「来月以降は・・・特に大きなイベントも撮影も入ってなかったと思いますけど」
「本当か!なら俺が同行するようなものは少ないんだな?」
「今のところはそうですね」
「ありがとキイチ!」
そう言うとナマエは、自室へと駆け戻っていった。
ナマエが動画制作の手伝いをしない、というのは半分本当で半分嘘だ。彼は実に後輩思いで、自分に出来ることならなんでも言ってくれと常日頃から口にしている。実際に水溜りハウスの家事はほとんどナマエが行ってくれている。動画の面でも手伝おうとしてくれるのだが、如何せん、彼はトミーよりも電子機器に疎かった。誰にでも得手不得手があるように、ナマエには動画外で手伝ってもらっている。
例えば、遠方での撮影や大きなプロジェクト、イベント時等人手が必要な時には必ず二人に同行してサポートをしている。最近は業界人気も手伝ってかなりそういう機会が増えてきた。ナマエがアルバイトや就活に割く時間が減るほどに。
それで喜んでいるのは例の二人である。むしろナマエに就活をさせないために無茶なスケジュールを組むことすらあるのだ。なんて恐ろしい。
しかしこれからしばらくは落ち着いたスケジュールになっている。もちろん飛び込みで撮影が入る可能性はあるが、ナマエのアルバイトや就活の時間は確保できるだろう。
しかしナマエが就活を企てていると知ったキイチは、黙って見守るわけにはいかないのだ。二人に報告をしなければ、何をされるかわからない。主にドッキリ動画の巻き添えになるのだが、不機嫌な先輩など絶対に相手にしたくはない。
キイチはナマエに悪いとは思いながら、二人の部屋がある3階へと昇っていくのだった。