第6章 君の手料理
それはある日の紅月のレッスン中のことだった。ちょうど休憩時間になったものだから、俺は腹拵えにあやが握ってくれたおにぎりを食うことにした。
「今日はシーチキンに味噌和えか…結構合うな…」
「……」
「ん? どうした、神崎」
何か視線を感じると思い、振り返ると神崎がいた。
「あ、失礼した。鬼龍殿が最近稽古の合間によく握り飯を食されるようになってから気になっていたのだ。自分で作られているのか?」
「いや、これは……嫁さんが握ってくれた握り飯だ」
「ぶっ…!?」
「え!?」
「な、な、なぁ!?」
勿論、あやのことはまだ嫁にもらえるほど責任が持てるわけではないが、恋人であることに間違いはないが、神崎にわかりやすく伝えることと、的確な言葉として浮かんだのが嫁さんだった。実際、あやは毎朝家に来て、おにぎりを持って来てくれるし、家事や飯も一緒にしたりなど、妹の学校送りも一緒なものだから…すっかり嫁さんみたいな感じだ。
「どうした、お前ら?」
そう思って応えのだが、神崎や蓮巳、あの物静かなあんずの嬢ちゃんまで驚きの声を上げて俺を見ていた。
「き、鬼龍殿、嫁とは…」
「あぁ、中学ん時から交際してる恋人がいてな。まだ嫁には出来てないな」
「まだってことは、いつか結婚したいんですか?」
「そうだな。責任取れるようになったらな」
「……おい、そんな話聞いたことないが?」
「話したことなかったからな。言ってあいつに何かあっても困るから黙ってた。それは悪いと思ってる」
「……相手は誰だ?」
神崎と嬢ちゃんから恐る恐ると聞かれ、蓮巳からは怖い表情で聞かれた。
前までなら俺との繋がりを知られて、あやの身に危険が迫っては困るからあえて誰にも言わなかったし、あやも俺の身を案じて今も口外しないでいる。
俺は紅月になら、今なら言っても問題ないと思って言ってるけどな。
「知ってるのか? 普通科3年の水瀬だが…」
「……あぁ、名前と顔ならわかる」
まさか蓮巳があやのことを名前だけでも知っていたのは驚きだ。