第2章 お引越し
-引越し当日-
一通り荷解きを終え、みなとは一息ついていた。
久しぶりの日本の部屋を見渡しながら深呼吸をする。
『さて、引越しのご挨拶にでも行きますか!』
そう言うとお土産を手に部屋を出る。
右隣の部屋の前で一呼吸置いた後、チャイムを鳴らした。
しばらく待ったが返事がない。
すると反対の部屋から「そこは空き部屋ですよ。」と声がかかった。
クリーム色の髪に褐色の肌をした男性。
男性は更にこう続けた。
「最近の日本では一人暮らしの女性は引越しの挨拶をしないほうが良いとされているんですよ。フランスではわかりませんが。」
『あ、私、今日こちらに越してきた藤峰と言います。よかったらこれ、つまらないものですが……って、えっと、私、フランスから越して来たって言いましたっけ……?』
「そのお土産です、アルザスワインですよね。それに今朝は引越し業者が出入りしてましたから。引越してきたばかりということは明白です。」
男性の推理に関心していると、お土産を持っていた手が軽くなった。
「せっかくなので、いただきますね。ありがとうございます。僕は安室透、これでも探偵の端くれなもので。」
『探偵?じゃあ小五郎おじ様と同じですね!知人も探偵をやっているんです。』
「へぇ、そのお知り合いの話、是非お聞きしたいですね、どうです?いただいたもので恐縮ですが、ご一緒にこのワインでも飲みながら。適当なおつまみでもお作りしますよ。」
人の良さそうな笑顔で誘う安室。
おつまみ、という言葉に釣られたみなとは安室の家で飲むことにした。